ピンポンパンポーン!!
「3年4組 山村夏深 3年4組 山村夏深 至急、職員室、藤沢までこい!」
目を開けているのがつらいほどの太陽がのぼり霧のせいか周りがぼやけてみえ、遠くで鳥のささやきが微かに聞こえる午前8時50分、校内放送が怒鳴り声をあげた。
「おい!夏深どうしたんだよ、その傷。」
「夏深!どこの奴らだ、また、こんまえのあいつらとやったのか!」
「おまえ、独りで行くなよな、一言声掛けてくれよな!」
「どうしたの?山村君、その顔?」
「おい!夏深!」
3階建ての校舎で2階の3年4組は、いまやパニック状態であった。クラスの殆どの生徒が教室の後ろ側に集まり、お祭りさわぎなのである。その中でただ1人、冷静な奴がいた。
そいつは、窓側の一番後ろの席に座り、中庭の小さな池の淵に集まった、3羽のすずめをぼーと見ているのだ。
「夏深!夏深!! おい! 夏深!!」
「ん、なに、この傷?やっぱあいつらつええよ、俺たち4人でも勝てねーもんな。
まあーあっちは6人だったけどな。あいつらは、チームワークみてーなもんが
あるもんなぁ・・・やっぱすげーよ。」
「なんだよ、言えよなー、あいつらには俺らも、どたまにきてたのによー」
「ばーか、言うも何もクラブの帰りに、俺らがいきなりやられたんだよー」
「なんだよ、情けねーなー」
「ぎゃははははーーーー」
といきなり、クラス中が笑いの声でうまった。その時、廊下から数人の駆け足で走るスリッパの音が聞こえてきた。5人の女の子がクラスに飛びこんできて
「山村君、どうしたの?今度はなにやったの。」
「どうしたの、その顔?」
「大丈夫?」
「昨日でしょう、私見たわよ。」
おのおのが、まるで狂ったスピーカーのようにわめいた。そして、その中の1人が遅れて小さな声で言った。
「・・・また・・喧嘩・したの・・・・傷、大丈夫?」
そう、純子である。夏深は困ったように、
「勘弁してくれよ、俺は芸能人じゃねえんだから。まいるなー、
それにこんくらいの傷で、人間死にやしねーよ、まいるなー。
淳也ー、トイレいこうぜ。」
夏深は速くこの場から離れたい一心だった。夏深が立ち上がった瞬間、大きな平手打ちが夏深の頬に命中した。
「なんだよ、いてーなー。」
って言った瞬間もう1発、同じ側の頬に命中していた。z
「おまえ!さっきの放送聞こえんやったんかー!相手の親が怒鳴り込んで来てる、
もう他の3人は、集まっとる、はよお来い。」
「ちょー待てーや!いきなり殴って、そんではよー来いってなんですか!
先生一言ぐらいあってもええんじゃないですか!」
「おう、後から一言って言わず何時間でも話ちゃるわい、はよう来いバカたれが」
そう言って猫の首をつまむようにして、夏深は連れていかれた。そして純子は、
「あああ、またいつもと同じやね、今日は何時まで怒られるんやろうね。」
って、小さな声で隣の女の子に言った。
「さあ 今日中には、終わるんやないん、かわいそうに。」
そして、また純子は、
「本当、好きやねー、よくやるわ、最低!!。」
なんて今度はいつもの声で言った。
今までさんざん盛り上がっていたクラスも今では、水を打ったように静まりかえり、2分遅れた、古い掛けだけがだらだら流れる時間に音をつけていた。
午後3時15分、幾人の腐った魚のような目をして、重そうでまるで登山にもっていくような大きな学生鞄をひきずる様にもった生徒が、足早にげた箱を飛びでてきた。
女の子たちは、いまだに昨日の”ベスト・テン”の話や、今日のテレビの話をげた箱のあっちこっちで、話している。その中で、夏深たちの話題もいくらか聞こえてきた。
「あの人たち、これからの事、考えてるのかしら。」
「バレー部は、変わった人が集まってるから!面白くて変わった人が・・・」
「なにいってんのよ、あれは気違いよ、みんな狂ってんのよ!」
さんざんな言われ方である。
「でも、キャプテンの学君は違うは、頭もいいし顔だってかっこいいわ!」
「なにいてんのよ、時登だって変態よ。私知ってんだから!」
また、この女である。よっぽどバレー部に何かがあるのだろう。
「でも、政君はいい人よ。本当やさしいんだから、私知ってんだ・・・。」
「そう?」
「そうよ、陽子は悪口ばっかり言うんだから。」
「そうよ、そうよ、陽子はちょといいすぎだわ。」
女の子たちはいっせいに、合唱をはじめる。ざまあみろである。確かに君は言い過ぎなのである。 ついでに私も”そうよ、そうよ”っと。
「でも、あの高尾だけは、勘弁よねー。」
おっと陽子以外にもバレー部の敵、発見!
「そうそう、あいつだけは、本当に何考えてるかわからないわ。」
おっと、おっとさんざんな言われ方である。何言ってんだよ。君みたいな女の子も僕たちから言わせりゃ御勘弁だよ。おっと、すいません熱くなって、私情をはさんでしまいました。もうちょっと言わせてもらうと、あいつのよさをわかろうともせずそんな事、君が言わないでくれ。まあ、君なんかには、いつまでたってもあいつのよさなんてわかりはしないだろうけど・・・・・。
「でも、なんかバレー部の人たちって、悪く言えば無限に悪口が見つかるけど、良く言えば、あの人たちってみんな、ばらばらで、それでいて何かまとまっているっていうか見ていてたのしいわ。ねえ、純子はどう思う?」
「よくわかんないわ、
いつも、ああやって自分たちのやりたいことやりたいようにやってるし、
そういうとこは、なんとなく好きだけど、でもあの人たちは、やりすぎよ。
やっぱり、楽しい楽しいって言って、好きにはなれないわ。
昨日だって、相手の2人は入院したっていうじゃない、
やっぱりいけないことだわ。」
「そうよね、やっぱりあの人たちは危険だわ。」
「いけない、もうこんな時間よ、練習始まってる。行こう!」
女の子たちは、いっせいにげた箱から飛び出して行った。
「ああー、今日は長かったなー。足ががくがくしてんぜー。」
「くそー、いったい何時間、俺ら正座してたんだよ。」
「おお、そういやー、こけし腕、大丈夫か?」
「たぶん、たいしたことねーよ、夏深、
てめえ、そんな傷だらけでそんなこと言うんじゃねえよ!」
「まーな、いきなり後ろからだもんな、まいったぜ。」
「彦、何か作ってくれよ、腹へって死にそうだぜ!」
「作ってもいいけど、ひね、そんな口して味わかんのか!」
「ばーか!味なんかわかんなくても、食わなきゃ死んじゃうよ。」
「じゃあ、俺は作らねー。味がわからん奴に作っても、意味ねー!」
「そんなー、彦、作ってくれえや!」
「彦、俺からも頼むっちゃー、作ってくれーや!」
「いやじゃ!!」
そんな話を職員室からしながら、ぼろぼろの4人が出てきた。4人はそれぞれ顔は、ぼこぼこに膨れて、片足を引きずりながら歩いてくる。そう先ほど、女の子の会話に出てきたのが、こいつらなのだ。”こけし”と呼ばれているのが、先ほどさんざんに言われていた、高尾 孝之なのだ。こいつは、まるでマンモスのような体で、まさに性格そのものB型なのである。
”ひね”と呼ばれているのが、女の子の会話の中で”政君”なんて呼ばれているのが芝 政男なのだ。こいつは、たいして体は大きい方でもなく、まあ、見た目は普通の男なのである。しかし、こいつと付き合いのながい奴は決って”あいつほど狂った奴はいないよ”っていうだろう。なぜかって、それはこれからこいつらを見てればすぐ解るはずです。そして、”彦”と呼ばれているのが角野 明彦なのだ。こいつは、とても変わり者で、こいつを知ってる奴は誰もが”彦?おお頑固もんか!!”って言うだろう。とにかくこいつは頑固でたくさんの彦伝説の中から1つだけ紹介すると小学校の町内ソフトボールのバッティング練習の時、監督が
「おい、彦、左の打席で打つならバットの持ち方がちがうぞ!」って言うと
「いいや、ええほ、俺、右打ちやけーこの持ち方でええほ。」
「でも、おまえのはいっとるのは左のバッターボックスど!」
「いいや、こっちが右なほ。」
「おいおい、彦、ちょお待て、ほんならおまえ箸持つ方どっちか!」って言うと
彦は、ばっちり右手を上げて
「こっち!」
と言う。そんで監督が、
「ほんで、そっちの手は右、左どっちか?」
そんで彦は、いっばって、
「左っちゃ!!」
なんて伝説の多い奴である。そして、こいつはとにかく料理が好きで、小学校の頃からよくわけのわからんものを作り、4人で食べるのだ。まあ確かにうまいものもあれば食べれたもんじゃないのまで、いろんなもんを作るのだ。そして、なぜか彦の作るインスタントラーメンは、格別にうまかった。
そしてもう一人の男が、夏深である。こいつら4人は、いつからこんなふうにつるんでいるのかは、さだかではないが、小学校の夏休みラジオ体操に行ってた頃からこの調子だったのだ。そして、4人が4人とも片足をひきずりながら、げた箱を出た。
こいつらと、さきほど足ばやに出て行ったあの魚の目のやつらと比べてみると、何1つ共通点が見つからない。まず鞄を見るとこいつらは決して鞄とは言えないぼろぼろの紙袋やきんちゃく袋を持っている。どの中にも、ほとんど何もはいっていない。ひねの鞄の中をこっそり紹介すると、中には一冊のらくがき帳と、おにゃんこクラブの何人かの切抜きのはいった下敷、そして、ぼろぼろのシャープペンシルが入っているだけなのだ。そしてこいつら4人は、ゆっくりと校門に向かうのだ。校門を出かけたとき、バレー部の後輩が、ランニングをしていて、
「ああ!、また帰るつもりでしょう。」
と声をかけた。そして、すぐさま、ひねが、
「ばーか、こんなんでバレーができるか、ほんじゃあの、がんばれよ!」
いいきなものである。そして、夏深とこけしが、
「ま、そうゆうこと、んじゃ、がんばれよ!」
「俺はやりたいのよー、バレー。でもはよう帰らんと、”夕焼けニャンニャン”が始まるけえの。やっぱあ帰ります、ほんじゃ、がんばれよ!」
そして後輩はため息をつき
「あれやもんのー、あの人達がおらんと、おもろないほい。」
なんて、小さい声で言い、次に大きい声で
「明日、”らおう”からどうなるかしりませんよー。」
そして、あいつらは振り向きもせず
「そこんとこ、よろしく頼まー。」
なんて言って、消えて行った。後輩たちは、また一斉に「はぁー」なんてため息をつき、またランニングを続けた。夕日は真っ赤に染まり、彼らの背中を見守っていた。
帰り道、いつもの道を、夏深とひねは石ころを二人で蹴りながら、
「へい!パス!」
「ようしゃ!そして、このボールを政君一人で、もって上がるー!」
なんていいながら、ふらふら帰っている。こけしと彦はというと、いまだに、こけしが、飯を彦にねだっている。
「のうー、彦、頼むちゃ!腹減って死にそうじゃ、のうーおまえのラーメン食いたいのー、頼むちゃ!彦ー。」
「いやじゃ!はよー帰ってファミコンしょうで!」
なんて言い合っている。
「よしゃ!センターリングー!!」
「もらったー、夏ちゃんスペシャルシュートーー!」
こいつらまだやっている。こんな風にあっちいってはこっちへふらりなんてしながら、30分で帰れる道を1時間以上かけてこいつらは帰るのだ。
学校のグランドでは、野球、バスケット、テニス、陸上、水泳部など、たくさんのクラブが一生懸命汗を流して、1・2年は涙と拳を隠しながら、それぞれ練習にはげんでいる。
しかし、その緊迫した中で、バレー部だけは、ちょっと違った雰囲気で、なにかやっている。
「よしゃあー!自主トレやめー!今日は、あいつらが来てないし3年は各自練習してー!ほんで 1.2年は適当に分かれてコートに入ってやってみー!今日みたいなに、しっかりボールにさわって試合と思って気合いいれてやれよー!ええか!」
キャプテンの時党 学が言う。さすがにこいつがまじめな顔していうと、1・2年はみんな一斉に、
「よっしゃー気合い入れてくどー!」
「はい!学さん見とってよー!」
なんて言ってみんなが気合いがはいる。そして3年はじっくり1・2年に付き合う奴もいれば、サッカー始める奴らもいれば、
「ほんなら、先に帰って、こけしの家いっとくわー、悪りーのー1・2年!がんばれよー!ほんじゃーのー!」
なんて言って本当に帰る奴もいる。本当にバレー部とは、あきれたものである。あの陽子さんがあそこまで言うのも、解る気がする。 そして、だんだん太陽も姿を隠してゆき、各クラブのかけ声も小さくなってゆき、グランドもだんだん生徒の姿が少なくなっていった。
次の日の午後、今日は土曜日なので授業は午前中で終わり、今、ほとんどの生徒がこれからのクラブの為に、各自が昼食のパンやカップラーメンなどを買いに近くの汚い、小さな店にごったがえしていた。しかし、我らがバレー部の姿が一人も見あたらない。ほんとに、あいつらは・・・・・。ちょと、あいつらの部室をのぞきに行ってみましょう。部室はグランドの隅に、ブロックで作られていて、一つの建屋に七つの部室に別れていた。バレー部の部室は野球部のグランドの側に有り、その建屋の中には、バスケットボールの男女、バレーボールの男女、陸上の男女、そして野球部の部室がある。並びの順番は、向かって左から、陸上の女子、陸上の男子、バレーの女子、バレーの男子、バスケットの男子、バスケットの女子、野球部である。なぜ、バスケットの男女だけ、並びのパターンが違うのかは、疑問だが、その理由はさだかでない。しかし、バスケットの女子はかわいいというのは、なぜか、この学校の常識とされていた。
さて、バレー部の部室だが、入口の横に小さなガラス窓があるのだが、こいつらの窓にはすでにガラスはなく端に割れ残った破片がくっついているだけだった。しかし、こいつらには似ても似つかないような、花柄の確かに汚いカーテンの切れ端が掛けられている。そこから中を覗くと、狭いその中には、15人ほどの男どもが詰まっていた。そして中には、壁に沿ってずらっと椅子が並べてある。椅子にもいろいろあり、体育館で使う、きれいなパイプ椅子、ぼろぼろの木で出来た長椅子、そして、バスの停留所なんかでよく見る、あの長椅子などが並んでいる。壁には、もう終わった大会の物なのに”3回は勝つ!!”なんて、サインペンなんかでへたくそな字で書かれたものが未だに貼ってあり、あいたところには”南野 陽子が最高!!”とか”○○はかわいくねー”なんていろいろ書かれている。入口にはげた箱らしきものがあり、やはりこれも学校のロッカーそっくりのものであり、誰かがきっと取ってきたのであろう・・・・。犯人を明かすと内緒であるが”ひね”である。その中にはこれは以外できちんとバレーシューズが並んでいる。そんな中でこいつらは昼飯も食べずに何をやているのだろう!椅子に座り漫画を読む奴、誰が持ってきたのかエロ本に4・5人がたかり、頭をくっつき合わせて
「こりゃーええ!!」
「おお!!こいつはかわいいど!!!」
「おい!こんなんありか!!!」
なんて、あほなこと言っている・・・。そしてもうひとグループが中央で
「ああーちょう待って・・・・。あ!やっぱええ!」
「はい!夏深さん、2枚取って下さい!」
「うそやろう!・・・へへぃ取るのはひねじゃ!」
「うそやろう!!夏深、持っちょん。ああ、まりなー助けてくれーーー!!!」
「ひねはついてないのう!」
「あ!!!それ、あたりです」
「ぎゃはははのは、もひとつ、おまけに、”は!”ばーか!ついてないのは、おまえじゃ!ぎゃははは!」
やっぱり、ひねは狂っている。
こいつらは、何をやっているのかというと、解った人もいると思うけど、トランプの”ページワン”をやっているのです(地方によってはいろいろ呼び方があると思うけど...。例として”ラスト・ワン”、”リーチ”なんて呼ぶとこもあるとか。)
まいったものです、昼飯も食べずにもう1時間近くやっているのですから...。
やっているのは、あの夏深、こけし、ひね、そして初登場の”じゃま”、1・2年がふたり。そして先ほど”あたり!!”と叫んで勝ったのが1年生の”キューピー”こと、間 守なのです。この子は見た目がキューピーマヨネーズのマスコット人形に似ているから確か夏深がこう呼んだのです。1年生のくせにやたらしっかりしていてそのせいか副キャプテンなのです。なぜ、こいつらがトランプごときにこんなにまじめになってるかって?それはいわずと知れたお金がかかっているからですよ!
そして負けた、じゃまは
「ああー飯がくえんようになるー。」
なんて、泣きそうな声を上げてキューピー君にお金を払っています。ふいに思いだしたように、こけし君が
「ああー!腹減った!おい、今何時か!」
なんて言うと、夏深が
「おお!なんか買ってこようぜ、はい!じゃんけん!!」
と、言った瞬間みんなが集まり、じゃんけんが始まる。
「じゃんけん!ほい!」
1発で決まった。負けたのは、夏深とじゃま、そして1・2年が二人。夏深は
「ああー、めんどくせー、みんな”のり弁”でええね!はよー金かせー!!」
なんて言って金を集め4人は出ていった。すかさず、こけし君が
「めしは大盛りどー!」
なんて言うと、外からじゃま君が
「わちょらー!うるせーのー!!」
なんて声が聞こえ、そして、また誰もが先ほどのつづきを各自が始めた。
4人は、グランドのまん中を横切りながら、昨日の”バレーボール・ワールド・カップ”の話を大声で話ながら、自転車置き場に向かった。すでに、他のクラブは練習を始めているのもあれば、1年が昼飯も食べずにグランド整理をしているのも見える。自転車置き場は体育館の側にあり、たくさんの木が生えてあり、気持ちのいい木陰を作り出す。
そこには、女子陸上部の5人がジャージを着て座り込みなにか話している。
「ねねー!昨日のワールド・カップ見たー。格好良かったよねー。」
陽子さんである。陽子さん本当はバレー好きなのである。
「見た見た!やっぱり、井上さん最高よねー!」
純子である。純子は大の全日本バレーの井上のファンなのである。しかし、純子さん、昨日は井上スタンティングメンバーではなく、ピンチサーバーで2・3度しかテレビには映りませんでしたよ!
”うるさいわねー!いいじゃない!それでもかっこいいんだから...”
これはこれは、すいませんでした、、、
そんなところに、あの4人、まったく、運が悪いやつらである。
「やっぱ!アメリカはすげーよなー、まったく日本は見てて情けねーよ!」
夏深である。本当に、運が悪すぎる。そして、よせばいいのに、じゃま君
「そうだぜ!情けねー!俺が出たら、ビシッってきめちゃるほいのー!くそー!」
なんていいながらやって来る。そして、しばらくしてあの冷たい目線にきずいた。
「なんだよ、、、その目は。」
1年君である。そして夏深が、
「お、おい、やめれちゃー、はよ行くど、、」
なんて、困った様に言う。そこをすかさず陽子さん、
「なんなん、夏深ともあろう奴がおどおどして。」
なんて言う。そこでさすがの夏深も、
「おどおどなんかしてねーよ!それより君、女のくせに”奴”なんて使うなよな、、」
そうなんです。今の夏深に何か弱みがあるとしたら、それは女の子なのです。現に夏深は、女の子と話すことはめったになく、あっても、
「おい、、シャーペン落ちたど、、、、」
ぐらいなのです。お互いが、言葉に詰まった時、純子が枯葉を指でまわしながら、
「男だったら、言葉ばかりじゃなくて、態度でみせてよ、いっつも遊んでばかりいて、暴力ふるうばかりが男じゃないわ!。」
と、まるで独り言のように言った。そしてじゃま君、
「うるせーな、俺たちはこういうのが好きなんだよ、それが俺たちのスタイルってやつなんだよ、黙ってろ!。」
そして4人は、長い坂道を降りて行き、女の子が見えなくなったところでじゃま君、
「どうだった?今の一言、結構かっこ良かったんじゃない、なあー。」
なんて照れくさそうに言い、そして夏深は、
「まあまあじゃねえか、」
なんて答えた。降りていくあいつらを見ながら女の子たちは互いに、
「最低ー!」
「ばかじゃないの!」
そして純子も、
「どうしようもないはね、あの連中は・・・」
なんて冷めた声で言った。
どのクラブも、汗をかきびしょびしょになって、グランドをかけずり回る頃、やっとバレー部の部室のドアが開いた。中から出て来る連中ときたら誰もが、満足そうな顔をして、
「ああー、ええ天気やのー、こんな日は釣りでも行って、テトラポットの上で寝ときたいのー。」
「ああー、食べた食べた、さて食後の運動とでもいきましょうかねー。」
「すげーのー、どこの部も、よおがんばちょらーや、なんか、俺も熱くなって来るねー。」
なんて言いながら、ゆっくりグランドの、どまん中歩いて行く。アップが終わり、
一度コートの中央にみんながあつまり、かけ声をかけ練習は始まる。各自がそれぞれアップを終え、コートに集まった。不意に夏深が
「今日は、気合い入れていこうで!!」
とぼそぼそと言った。誰もが、いつもとは違うただならぬ夏深を感じ、誰もが大声で、
「おう!!」
と、叫び一つになった。その叫び声はグランド中に、響きわたりどのクラブも一瞬動きが止まった。バレー部の練習パターンは、かけ声がおわると、ペアーになりパスを始め、次に、コート両面でサーブカットを行う。バレー部には伝統で練習中かけ声がある。しかし、こんな日はそのかけ声は聞こえず、
「おいおい!!そんなんも取れんのかー、へたくそがー!」
「うるさい!もういっちょこい!!」
「へいへい!どうしたどうしたー」
「すべれすべれー!取れん玉やないどー、どうした、どうしたー!」
「へい!来い来い来い来いーー!!」
そうやって誰もがけなしあう。すでに誰も汗をかき、そのうえグランドをおかまいなしに滑り込むので、汗で濡れた服はそのまま土を吸い込み、泥だらけである。こうなったときのこいつらは、魅力てきであり、もう誰も止めることはできなかった。